三
方岳(さんぽうだけ)の登山口となる「大河内峠」までは、在住の西都市からは2時間程度だ。国道219号線から、西米良村村所を目指し、途中橋手前から
265号線に右折するとひたすら標高を上げて車を走らせる。途中、車を止めて、渓谷を覗き込み新緑を眺めながら、朝食のオニギリを頬張る。
大河内峠に着くと、4台ほど駐車していた。まだ支度をしていた方と、少し話すと尾崎山へ行かれると聞く。この峠は、北へ「尾崎山」、南へ「三方岳」への
登山口となっている。「三方岳は、3時間ぐらいかかるんじゃないですか?」と聞かれたが、初めてだから判らないと答え歩き始めた。
しばらくは、右に自然林、左に人工林を見ながら歩くが、結構な急な斜面である。ゆっくりじっくり登ると、最初のピークが来た。振り返ると、南郷方面の山
々がグルリと見えている。三角点のある次のピークまで、ゆっくりとしたペースだが、実に良いペースで足を止めずにママもついてきた。「自然が濃くて、新緑
が綺麗で、大好きな雰囲気やわ!」と、あまり語らないが山を楽しんでいるのが伝わってきた。ここから、一旦、120mほど高度を下げる。帰りの登りを考え
ると嫌だなぁ〜なんて思いながら歩くが、景色と雰囲気の良さに、すっかり登りなのか下りなのかは問題ではなくなっていた。
山頂からは、石堂山・市房山が見えている。特に、三方岳から稜線のつながる樋口山・石堂山への曲線が、実に鮮やかに見えている。きっと縦走するぞ!と意
気込んでしまう景色だ。見ながら食べる弁当は旨いに決まっている。木陰が涼しい季節になり、こうして新しいピークを踏むたび嬉しくなってしまう。家族で始
めた登山も、少し違う展開になりつつあるが、ずっと歩いていたいと考えている。何を目指し、何に感動し、それを価値とするのかは判っていないが、理由など
要らないのが自然との触れ合いなのではなかろうか?ものさしは常に自己の内部にあるのだから、いつもそれで測ればいい。誰と比べてとか、経済的にどうのと
か、あまりにも無意味な気がする。私達が焦り、追いかけようとする自然の移ろいは、きっとそんなちっぽけな人間の期待など考えてやいないはずだ。あくまで
も自然に四季を重ね、歳月を重ねている。
今度はいつ来ようか?紅葉の時期がいいかも?気に入ったママは、いつになく嬉しそうにしていた。花や雪や、そんなものでなくても良い、森の記憶が私達に
残った。そこに、時間の経過など必要ない気がしていた。来た道を戻るのだが、あまりにも早く下山した気がした。こんなに近くに、本当の森があるなんて、そ
れだけで嬉しくなっていた。
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