状況は、霧雨。第1スラブはすっぽりと雲の中である。
これから本降りになるのは判った状態で登攀具を身につけた。
1P、黒く湿っているのは苔である。小松の親分が、「行きます。」と取り付く。案外、最初の所だけが微妙に滑るが、5m直上すると階段状でホールドもガ
バで思いっきり行ける。かえってビレー位置近くの草付きの方がいやらしい。登り上がると、異常な湿度で汗が吹き出る。「蚊がたくさん!」と報告を受ける。
2P、草付き大テラスは、蚊の餌食である。小松の親分が左に回り込みスーパールートのスラブへ向かう。難しくは無いが、いつもは高度感が一気に増
す・・・のだが、今日は雲の上を歩いている気分である。ついもは途中でピッチを切っていたが、まだ効くリクションに45mロープを延ばして平行ピン。フォ
ローの私は、案外怖くて体が張り付いているのが判る。以上に指先・足先に力が入っているのが判る。
3P、そのまま亀の甲スラブ下のテラスまで私がリードする。リードの方が、より神経が高ぶるが、ここは難しくもなく上がれた。左に見えるはずの豪快な
ニードルも、眼下の綱の瀬川の河原も見えない。霧雨から雨に変わる。休憩するまもなく、亀の甲スラブへ。
4P、小松の親分が、亀の甲へのバンドへ豪快に上がる。するするとロープが出て「登って来い!」のコール。亀の甲スラブは、ザラザラの上にホールドも豊
富である。ただ、この日私はチムニーからバンドへ抜けるところが体勢が悪く、どうなることか・・・と思った。怖さ故、チムニーを上がり過ぎてバンドへ乗り
移る場所を間違えていたからだ。情けない。
5・6P、私がリードで簡単なスラブ・・・のはずを取り付く。本降りとなる。中間部のフレークを過ぎると、ピンがない。フレンズで支点を作ったものの、
雨の中20mランナウトしてビレー位置。ザーザー降りだ。とにかく、フリクションで立ち込むところが怖いし、実際滑る。当然だろう。
P、ここからスーパーの5+級を行くつもりでいたが、この降り方では諦めざるを得ない。くやしそうな小松の親分だが、ケガしては話にならないので、強く
ノーマルを私が主張した。それでも、フリクションクライムのこのピッチと本降りの雨は、辛い登攀となった。
8P、いよいよ最終の登りとなる。いつもは私に有終の美ピッチとして頂く所だが、ここは慎重に小松の親分に言って貰う。5級程度に感じる。
いつかは、訓練としてやっておかなくてはならなかった「雨のクライミング」だが、危険度も困難度も相当に増すことは確実だ。毛羽立つ9mmのロープの重
いこと・・・。下降路までは、コンテで行くことにした。こんな所で滑ってはしゃれにならない。安全こそが、後に続く確実な方法と再確認する。ますます激し
くなる雨足に、汗もかかず千畳敷を迎えることが出来た。あまり疲れはしなかったが、精神的な疲労は大きい。パンツまで濡れたので、着替えて車内で遅い昼食
をとる。
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