107日ぶりに、私は比叡への道を走った。助手席で寝ているのは長女である。祭日の比叡は、駐車場が賑わっていた。ギアの確認をしている女性2人パーティの横に駐車しすると、娘に準備を促した。
なんでもない顔をしているが、内心ビビッているのは私である。アプローチの登山道を足をひきずりながら歩いている。TAカンテ方面に行く時には、いつも
下部の4−級練習ピッチを登る。今日も、ここでロープを結ぶ。ビレイ体勢と操作、登りながらのギアの回収を教える事5分・・・、私は取り付いた。
なんでもない、易しい、この下部のピッチが立ち込めない。大丈夫な右足が滑る。「おかしい・・・!」と思った瞬間、怖さに包まれている自分に気付く。岩に体が張り付いている証拠だ!なんでもない振りして、長女をフォローさせた。
1Pは、このルートの核心となる。下から、どう登るのか何度も聞いてくる。ワンポイント、左の少し傾斜のあるスラブへ出るところで行き詰った。完全に上
半身が岩にへばりついているのが判る。注意しながら、体勢を取り直すことを告げると、少し強引に抜き上げた。順調に2P・3P・4P・5Pとこなした。き
ついクライミングシューズが痛いらしく、気にしていたぐらいで、大した怖がりは見せなかった。
私は、リードしながら無心を努めていた。左足で経ちこむたびに痛みが走る。しかし、それは我慢できる範囲であり、娘と来ている状況を感じる事の方が大き
かった。登り上がった稜線で、下降路まで行って昼食にする事を告げ、コンテで歩いた。石碑のある展望所まで行くと、6名の高年パーティーが休憩されてい
た。物々しい格好の我々を見て、岩登りのことを聞いてこられた。親子である事が判ると、ますます質問は増えたが、しばしヒーローインタビューよろしく娘は
悪い気もせずに、丁寧に答えていた。
この岩場で滑落し、またこの岩場に戻ってきた。岩を触れるたびに、私は自分だけの感動や満足でいいのか迷った。そして、ママを連れて登った。次女を、長
男を・・・、長女を連れて登った。何を感じてくれたのだろうか・・・。私の子供で嬉しかったと、何時の日か感じてくれる瞬間が楽しみでならない。ハタマ
タ、単なる親父の自己満足なのだろうか・・・。
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