山の会で、事務局である私は「会で20人クライミングをしませんか?」と提案した。今年の秋までには会員のクライミング人数を増やし、10人のリードと
10人のフォローで「比叡の第一スラブ」を登ろうという計画である。実際に20人という数字は適当なのであるが、少し大きい数字の方が楽しいと思ったから
だ。それに、私を初めてこの比叡のクライミングに連れてきてくれたNAMA会長を喜ばせてあげたい気持ちもあるからだ。
すぐに反応してきたのは、好奇心旺盛のヨネヨネである。小学生の子を持つ母親であるが、根子岳の縦走や、アイスクライミングまで体験している。まだ、
11ヶ月のクライマーの私に「連れて行って欲しい!」と怖い言葉を発したものだと思う。幸い、川キョンとコマツの親分も同行となり、私は、まだビレーも出
来ないヨネヨネを従えリードし、コマツの親分は初のオールリートに挑戦という事になった。実際、少し怖そうな所は私のビレーは川キョンに頼んだのだが、後
半はヨネヨネも確保器を操つる様になった。
所属会のNAMA会長は、出来る限り実践でないと覚えないと言う。特に岩は、その不安定な場所で、自己の確保をこうする。パートナーの確保はこうする。
結びはどうする。安全と前進への知識と体験を交えながら覚えて行くことになる。私も、初体験のクライミングで易しいところをリードさせていただいた。その
経験は大きかった。2回目の川キョンとのクライミングで、よしリード!と挑戦するようになった。結局、ヨネヨネを11ヶ月で連れてくることが出来たのだと
思う。
自分の意識や技術を高めるには、良い方法だとも思うが、やはり怖さが先に立つ。現地に着くまでどのルートを登るのかは、私と川キョンの間で決まらずにい
た。「よし!1スラ。」と言う私を、ヨネヨネは不安げに見ていた。しかし、先週にリードクライミングへの挑戦を誓ったコマツの親分は、1スラリードにやる
気満々である。やはり、パーティ全体のやる気ムードは大切である。
先陣を切って私が取り付く。少し湿った岩がいやらしいが、難なくビレー位置へ到着し、後続に声をかける。またもや、素晴らしい青空と、もっと開花したミ
ツバツツジがすがすがしい。そうこうしていると、福岡のしげさんが、同会の先輩「庵のホープ/ハッチーさん」とハッチーさんの弟子・ひふみんさんと登って
きた。この日に会わせて、私としげさんは比叡のクライミングを企てていたが、それぞれの仲間が取り巻いて総勢7名・3パーティのクライミングとなった。そ
もそも、ハッチーさんはネット上に素晴らしい活動を報告されており、一度会いたい存在であった。すがすがしい、笑顔で挨拶を交わすと、もう仲間みたいな感
覚である。先を譲り、登りを見せてもらうことにした。
私達は、慎重にいつものルートをたどるが、ハッチーさん達は亀の甲スラブの正面ルート「KYバリエーションルート」へと取り付いた。とんでもない傾斜で
ある、5.11bと本に書いてある。しかも、オンサイト(初トライノーテンション完登)狙いだから凄い。オンサイトならずも、無駄のないムーブと後続の
ホールド位置のチョークマーク、お助けシュリンゲ残置、もっとすごいのはレストの取り方である。これを見られただけでも、言うことナシ。しばし、30分は
ため息の見物となる。
いよいよ後半戦、まず私が亀の甲へ取り付く。すこしスタンスやホールドを忘れてしまい、かぶり岩手前のテラスへ這い上がるのがどうもムズい感じであっ
た。スラブへ乗っかってからは適度にフレンズでプロテクションを取りながら上がって行くと、ハッチーさんの携帯カメラが待ち構えていた。
亀の甲スラブを過ぎると、川キョンからヨネヨネにビレーを実践させる。直上の2ピッチをまとめて登り、下を少し登らせて平行ピンへクリップする。そこか
らが課題の2こぶ岩なのだが、しばし次回へ持ち越してしまう。ここからノーマルコースへ行くのは、思い切り草付きであったが、綺麗に草木が払われスッキリ
したコースになっていた。
終了点で、全員で握手。遅い昼食をとる。福岡の3人組は、先に下山するので再会を誓うが、我々がゆっくり下山していると、途中の岩を使ってボルダーをし
ていた。なんとも早い再会であるが、私は始めて見るボルダーに何かしら深いものを感じてしまった。
なにはともあれ、初心者の私がリードしそして、無事下山した。温泉につかり、一緒に夕食を食べ帰宅した。すべてに何の事故もなく・・・と言うことに、なんだか「リードで登らせる。」深く強く重いものがあるのかも知れない。
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