水流渓人「hot-news」

2006年11月8日 「水曜登攀隊/大崩山・小積ダキ・中央稜ルート・下部」宮崎県
 

 
 
中央稜ルート・・・、私は、2002年11月23日に、所属山岳会の会長に連れて行ってもらった。クライミングを始めた年である。中央ベランダから上部であるが、そのスケールに圧倒されたのを覚えている。しかし、小積谷の基部、いわゆる1P目からのクライミングは未経験である。小松の親分は、上部を登ったのが17年前、下部は隣の「蜘蛛の糸」ラインを2年前に登っていた。今回も、チームとして初挑戦となる。
 理由はもう一つある。比叡の「
白亜スラブルート」上で初めてお会いした、宇部の三浦章さん・・・水曜登攀隊の尊敬するクライマーである。その後も、鉾・比叡で何度かニアミス・・・今年9月20日、「復活の日ルート」の登攀終了後、比叡トイレ横で片づけをしていた私達のところに、本当に爽やかな笑顔で、いつもの穏やかな顔で、「お久しぶりです。宇部の三浦です!」と、声をかけていただいた。当然、再会を約束して、帰路は「川水流やな」辺りまで前後を走り、手を振って道を分けた。結局、あれが最後となった。思いがけぬ祖母山での事故で、三浦さんは帰らぬ人となった。あの、白亜スラブで、私は初対面の三浦さんに、飲みかけのペットボトルのお茶を差し出した。「いただきます!」そう言って三浦さんは笑った。無駄の無いクライミングの動作に、その実力と経験が溢れていた。私は、訃報をネットで知り、彼の記録を読みながら涙が出て止まらなかった。その中に、三浦さんが9月28日「大崩山・小積/蜘蛛の糸〜中央稜ルート」を登られていた事を知った。小松の親分にもその事を伝えた。三浦さんの書かれた「・・・九州を代表するル−ト・・・。」の文字に、何か導かれるような、そして強い意志を感じたのは私だけではなかった。
 「初見となる中央稜ルートをやりましょう!」力強い小松の親分の声に、断る理由は見当たらなかった。
 

「小積ダキ・中央稜ルート」・・・聞くだけで私には聖域である。
   
まだ真っ暗の登山口で準備。 5時5分、ヘッ天の明かりで入山。
   
小屋を過ぎ、ワク塚分岐 渡渉する橋の所は、まだ真っ暗!
 
少し朝焼けが見えている。これから始まる旅の震えが止まらない・・・。
     
正面に小積ダキが朝日に写し出された! 登山道から分かれ、小積谷を歩く。
         
正面からの「小積ダキ」は、天に向かってそそり立つ圧倒的な塔である!
初めて来て、少し行き過ぎ北壁が見えてきた。このまま詰めたらリンドウ丘?
右にワク塚が見え始め、慌てて引き返す。20分のロスとなる。
ようやく取り付きとなる閉塞感のある岩が立ちふさがる。
   
取り付きから奥を見る。左手前に蜘蛛の糸ルートの取り付きがある。 取り付きから下を見る。

 今回、同じ西都山岳会のタエちゃんの同行が叶った。彼女は、庵・鹿川の会員でもあり、2005年4月に、一応、会長他とここを登っている。記憶は薄い・・・(^o^;)。まぁ、われわれの初見チャレンジをより効果的にしているのだろうが・・・(^^;) ってな具合でのチームとなり、会への登山届けには、『12時までに中央ベランダへ到達できなければ、撤退します!』と添えた。
 私は、少しいい気になっていたのかも知れない。取り付くと、今までに体験した『人工登攀』とは何だったのかを思い切り知らされる羽目になった。サビて、リングは変形し、時にはリングの切れたボルトにアブミを架け替える。息が詰まりそうな恐怖感と、垂直の世界。平然とは登れない。

 
1P、小松の親分登攀を開始する。 状況の良くない支点が相次ぐ!
  

1Pの終了点は、足場の悪いチムニーの中。

    
奥で確保体勢に移るタエちゃん。 2Pへリードを開始する。
ハング気味の岩角を回り込んで、ピンが遠目のボルトラダー40m
3Pから、ようやく快適な人工となる。ピンは俄然古い!
  
終りかけた紅葉が小積谷に敷かれていた。
  
3P終了点からのワク塚(写真クリック拡大
  
余裕も無いが、「イェ〜イ!」ノ水流渓人 3月岳人登場予定@タエちゃん
  
4Pへ取り付く 4Pスラブを過ぎ人工が混じる。
  
3P終了点から見上げる小積ダキは、巨大要塞である。
 
後少しで、スッポ〜ンと抜けそうなピンだらけ・・・
「こりゃ〜、ロシアンルーレットみたいな岩登りやが!」と、小松の親分談。
 
4Pの終了間際に、おもしろいクラックがあり、充足の登攀である!
 

 計画した時間を、大幅に遅れていた。13時08分、4Pが終了し中央ベランダに向かう。「さぁ!下山して温泉へ行こうや!」敗退?いや計画通り撤退だ!水曜登攀隊としての初見チャレンンジは、下部で見事成功である。充実した気持ちは、楽しみとしての上部を残しただけだ。反省はある。しかし、ベテラン域のこの山域でのクライミングは、1回で成功する事でなくてもいいじゃないか!そう思った。何度でも来たらいい!大切に登ればいい。
 崩壊した坊主谷に降り立ち、登攀具を片付ける。すがすがしい気持ちにもなれた。決して逃げ出す事なく、いままでの経験を生かせたと思っている。「また、来て楽しみましょう!」この大崩の岩を谷から見上げた爽快感も、私は格別だった。2Pの岩角の乗り越しで、力尽きそうになった事も今鮮明に思い出される。すべてが今日の1日の出来事であり、私の大切な経験となった。

 
坊主谷、崩壊した岩で地の果ての形相である。
ここを詰め上がり、登山道へ合流する・・・後は一気に登山口である!
坊主尾根の象岩下のトラバース
 
象岩下から、谷に写る小積ダキの影
見返りの塔から、宿題となった上部を眺めた!
一気に下降すると、川の渡渉位置へ そして、登山口へ無事下山!
    

 坊主尾根を駆け下る。川に出て、もう一度小積を振り返ると、すでに雲に覆われていた。再訪を念じて、山小屋横をぬけ登山口へと無事たどり着くことができた。
 気持ちの中でわだかまっていた、宇部の三浦さんの攀じったであろう中央稜ルート上部の、どのチムニーもクラックもスラブもフェースも触る事無く戻ってしまったが、あの三浦さんの爽やかな印象に似た気持ちに包まれていた。
「三浦さん、ここにまた来るよ!なんか、比叡や鉾へ行けば会える気がしてならないなぁ・・・。」
 

    
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7日/20:00自宅発----21:00道の駅「日向サンパーク」----23:30美人の湯下駐車場
8日/4:00起床----朝食----登山口へ----5:05登山開始----5:55渡渉の橋----7:30取り付き到着----8:00登攀開始----9:28・1P終了----11:30・2P終了----12:15・3P終了----13:08・4P終了----中央ベランダ----13:55坊主谷----片付け・昼食----14:25坊主谷登り開始----14:57登山道----象岩トラバース----15:30見返りの塔----16:28川の渡渉点----16:50下山----祝子川温泉・美人の湯---19:30自宅着

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