2005年5月11日 「比叡3峰左方カンテルート/水曜登攀隊・復帰第一戦」宮崎県
「どこ登ります?」 久々に聞く、小松の親分の声である。『水曜登攀隊』などと、少し格好付けて通いはじめた県北の岩場であった。山岳会所属とは言え、私達はその山行の殆どが平日で、仲間との同行は少ない。岩に連れていって貰うことも少なく、諸先輩方の話や、報告文、市販のガイド、インターネットで情報収集し、手探りで今日まで来た。 そして、小松の親分は練習を重ね、体を作り、技術を磨いた。その中に、水曜登攀隊の核心はあり、私は必死でフォローし、こうして素晴らしい記録を自分のHP内に綴っていくことが出来る。ずうずうしくも、私の事をパートナーと呼んで貰えるなら、嬉しくてたまらない。初見のルートにこだわり、話し合いながら、何が何でも上へたどることだけを実践してきた成果として、比叡の多くのルートに足跡を残すことが出来た。 年が明け、欲深い私は、私自身の成果を確かめるべく取り付いた初見のルートで滑落・骨折であった。そのまま、水曜登攀隊は4ヶ月の凍結となった。
自信は無かった。復帰する事・・・、登る事・・・。ただ、自信は何時も無い事なので同じだし・・・ 「折角だから、まだ私の登っていない3峰のルートでもいいですか?」 と、言ってしまった。小松の親分は、以前、3峰挑戦の最初に川キョンと登っているが、快く引き受けてくれた。
3峰に引かれた「左方カンテルート」は、開拓が1980年と『日本の岩場』にと記載されている。ルート図の表示は 1P・30m/3級・・・バンド 2P・40m/5級・・・カンテから前傾を越しスラブ 3P・40m/4級・・・スラブに入ったクラック 4P・30m/4級・・・スラブからクラック 5P・15m/4級 6P・30m/4級・・・コーナーのクラック となっている。また、所属会の会長であり庵・鹿川の会員でもあるnamaさんからいただいたルート図には 1P・30m/3+級・・・階段状のやさしいフェイスを右上 2P・40m/6+級・・・小カンテからかぶり気味を左に回り込みフェイスのクラックを登る 3P・40m/4級・・・クラックをつないで登る 4P・30m/4+級・・・小スラブを左上から右に折り返してフレークをレイバック 5P・40m/6-級・・・左へのンドトラバースから直上し、 ハングを左に回り込んでコーナーを登る となっている。いろいろ想像だけが渦巻いていたが、取り付いたら終了点を目指すのみである。現在、3峰には「比叡の果てルート」「左方カンテバリエーションルート」「ラストフロンティアルート」「白亜スラブルート」「天空への階段ルート」と人気のルートがあるが、ようやく「左方カンテノーマルルート」へやって来た。
取り付いて1Pの3+級ですらぎこちない。平行ピン手前のワンポイントを躊躇してしまうほどである。2Pを見据える。 「どんげやったか思い出せん・・・・。まっ、行きます!」 と、小松の親分。ホールドの少ないカンテから小フェース。中央のピンにランニングをとると、まず左から探る。何度かトライしてテンション。右からなんだか不安定なムーブでクリアし左凹角を回り込むと姿が少し消える。ルート図には『回り込んでクラックを登る』と書いてあるが、ピンが無い!と声が聞こえる。フレンズで支点を作りながら、少し時間をかけて登り上がるが、左凹角にセットしたフレンズのロープが岩の透き間に入り重くなったロープに苦戦した。 フォローする私、ロープがたるみ核心部では、お馴染みの【アブミ】が登場した。このアブミ・・・本日仕様で、いつもの3段でなく『5段テープアブミ』である(◎_◎)。しかし、骨折る前も6+級はいつもアブミだし、ロープがたるんでいなくても『アブミな水流ちゃん』である。 少し、骨折の療養期間を経て、自分が以前はもっと上手やったような錯覚に陥るところが、案外、復帰出来た証なのかもぉ〜q(-_-)bad!!。
次の4級も、クラシックルートのクラックのグレードなのだろうか?5+〜6−級に感じた。ようやく簡単な4級を立木へたどり、小休止。 「なめてかかるとイケマセンねぇ〜!」 小松の親分の一言に、私も気分を高揚させる。最終ピッチは、以前、フォローでアゴを出しテンション掛けまくり6-級である。リードした小松の親分からのコールを緊張して待つ。 高度にビビリは無い!ブツブツブツ 落ち着いていけば大丈夫!ブツブツブツ ・・・以前よりいい登りをしたくて、自分を落ち着かせていた。 「登ってこい!」 終了点に到達し、達成感を感じる艶のある声が聞こえた。最終ピッチは、中間地点でピッチを切った方がロープの流れもスムーズなので、今から取り付こうとするのは正確には最終ピッチの後半である。スラブをいったん左に出て、右コーナーをレイバックで上がるのだが、当然支点はフレンズである。クラックも指が入らないところがあり、前回はホールドとスタンスを拾うのにレイバック体勢のままが安定しなかった。たぶん、核心はコーナーをズリ上がり、クラックが無くなる所から左のホールドへ移る所だが、少し外形しているのと、足ブラになりそうで思い切りがいる。なんとか肥満体をかばうごとくデッドにホールドを抑えつつ耐えて素早く足をズリ上げた。(格好よく言えば・・・。状況は、肥満のブルドックが滑る壁でもたついている・・・と想像されるが良し!)次は右手・・・と、上を見ると幸運にもガバ・・・。ガバっと握ると、勘違いかも知れないが「ギリッ」と音がした感じがあった。慌ててスタンスを安定させ終了点に抜けた・・・。後、登る方くれぐれもご用心を・・・勘違いかも知れないが!
握手。ベニドウダンのかわいい花が、オジサン2人を迎えてくれた。足下にはシライトソウ・・・。なんか、グッと来てしまった「左方カンテ」であった。 安全なクライミングこそ!と、胸中で唱和した。
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