水流渓人「hot-news」

2003年9月10日 「比叡山/浪漫への避行ルート」宮崎県

 
  

 絶好の秋晴れだ。まだ強い日差しだが、吹く風が実に心地よい。
「まだ、登ったことのない所に行こうや!」
と、小松の親分と話していた。
「先週がニードルやったから、今度は少し易しい所にしようか?ナックルスラブ・ノーマルか、奧の細道か、みつばつつじの道当たりでも・・・。」
「じゃ、とりあえず奥の細道ルート狙いで・・・。」
後で、ガイド本や藪山澤好さんのページで確認すると、奧の細道には左Y級右X級と書かれている。後がだんだん楽になるので、『まっ、いいか。』であった。
 しかし、しかしだ。二人とも比叡T峰南面で、最も奧はTAカンテ・3KNスラブルートまでしか行った事がない。小松の親分は10年前ぐらいにナックルフェースを登ったような気がする・・・ぐらいでだ。取り付きが見つかるか不安もあったが、冒険的でゾクゾクする感覚も久しぶりでもある。

 T峰の取り付きには、立派なトイレのある駐車場が便利だ。いつも平日なので、誰もいないのが定番であるが、めずらしく福岡の2人組クライマーがテント泊していた。若者クライマーなので、何となく嬉しくて声をかけた。今日のルートを確認し合うと、「奧の細道+ニードル」だと言う・・・、奥の細道が同じなのでいつでも譲ると言うが、遠慮して別ルートにしてくれた。謙虚な2人組・・・「失われた草付き」を登攀していたが、実にしなやかな上手な登りだった。
 
 さて、話しを戻そう・・・私達は結果的に、すべてのルートの基部を通り過ぎて、ずいぶん高度を上げていた。ブッシュ+立木が増えた岩場には、もうルートは確認できなかった。そこで、もう一度、藪山澤好さんのレポート文を読み返してみると、『ナックルスラブルートの右上10b』と書かれている。ずいぶん戻って、出っ張ったバンド状に直上のリングボルトのルートが引かれているのが確認できた。左隣を確認すると、ハンガーボルトのラインが引かれている。単純に、左が「ナックルスラブ」で、この狭そうな感じが「奧の細道」なのだと・・・、固定観念もいいところだった。
 実際、自宅に帰っていろいろ報告しているときは、まだ自分は「奧の細道」を登ってきたつもりだったが、藪山澤好さんの体験記の写真を見て、ようやく違うルートを登ったことが判明した。違うと判れば、じゃ一体どこを登ったのか?思い当たる節・・・・を、すべて思い出すと、「浪漫への避行」ルートを登っているのが判明した。
 

   

 
 と言うことで、ここからは「浪漫への避行」のレポードに切り替えてしまわなくてはならない。とんだミスコースで反省点が多いが、やはりウソのないレポートを残しておく方が、楽しいに決まっている。実際、1Pは25b級と思いこんで登っているが、実際は1P20bY級+2P20bY−級を、一気に登っている。
 
 本当に厳しいルートで、上り調子の小松の親分が、めずらしく何度もレストをとり、どうしてもホールドがとれず、一度スカイフックで乗り越した。爪を立てるぐらいのホールドは5箇所も剥離し、絶好のスタンスには落ち葉と泥が詰まっていた。手で岩肌を擦ると、パラパラと乾いた苔が落ちた。しばらく誰も登っていないのだろうか?先週のニードルより、遙かに厳しい登攀となり、ピンからピンまでがほとんど「核心」と思った。そして、それが30bほど続き、ようやく小さいハングほ越し、大きなポケットを迎えると核心が過ぎる。ホールド、スタンス共に爪をタイルほどとなると、厳しいことこの上ない。ビリビリした緊張感と自己の精神力のギリギリの所で耐えなくてはならなかった。
 

 足の親指と、手の爪だけで登る感じである。何度も言うが、それが30b続く。経験したルートのほとんどは、「核心」を数bで楽になるのだが、それが続くのは初めてだ。小松の親分は、ここでも素晴らしい上りを見せてくれた。強さを見せてくれた。当然、私が登れたのは彼の後続だからだが、ビレーしている立木に着いて、
「本当に、こんな所を良くリードしたなぁ・・・。」
と、何度も私は言った。
「いままでで一番厳しかったわぁ・・・。スラブは何もないから怖えぇ−。スラブの怖さを見せてもらったなぁ。」
と、小松の親分が答えた。

 

 続いて、上へ行くわけであるが、とにかく上なので、何ルートか判らず、通常はX−級ぐらいあるんじゃないかなぁ・・・と思われる、かぶり岩の基部を微妙なバランスでトラバース気味に上がり立木でピッチを切る。
 傾斜も落ちてきたので、そろそろ私が・・・と行くが、なんと森の中となってしまう。左のスラブに出る手前で、小松の親分を迎え、そのまま直上してもらうと『下降路』となる標柱のある展望所下にたどり着いた。ここはまさしく『奧の細道』の終了位置なので、だいたい間違いなかったナァ・・・と、ロープを解いて握手。その頃は、ルートはどうでもよく、あの1Pを登れた余韻に浸りながら、涼しい風に吹かれて昼食をとった。

終了点にて小松の親分 喉元過ぎれば呑気な水流渓人
  

水曜登攀隊
  

 ビールなしの昼食は、なんと下山の楽な事だろうと実感した。いつもより軽い足取りで、千畳敷を迎えた。岩に金属が当たる音がするので見上げると、今朝の若者2人が、ニードルの核心ピッチを登っている所が見える。あの残地フレンズのあるフレークから、極細のクラックを右に行く所で、リードがフォールするのが見えた。しばらく座り込んでいたので心配したが、リトライするために立ち上がった。私が離陸できなかった最初の所を軽く上がり、極細クラックの所から、大きく左足を伸ばして耐えている。なんとか右ホールドをとりスッと切り抜けた。素晴らしく無駄のない動きに、小松の親分から「上手いッ!」と、声が漏れた。

       
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5:40自宅発--6:20都農神社--8:00比叡駐車場--8:15入山--9:30登攀開始--13:25終了点----昼食---14:10下山開始--14:45千畳敷--15:20駐車場着----門川温泉----18:00自宅着

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