水流渓人「hot-news」

2003年9月3日 「アーチチーのクライミングin比叡」宮崎県

 熊本の山仲間である「じんさん」を比叡に誘った。彼女は去年の12月、初めてクライミングの練習をしたばかりだ。マルチルートを登るには、少し大変かな?とも思った。でも誘った。私は落ちる筈も無く、登れなくても引き上げる自信はあった。そんな意気込みだった。

2002年12月16日の練習で懸垂下降するじんさん

 
 クライミングは、相手を危険にさらし、それを利用して登らせてもらう・・・・。あるいは、自分を危険にさらして、相手を登らせてあげる・・・。極論だが、結果的にそんな関係が成り立ってしまう。実際は、チームとしての信頼関係に成り立つ行為であるのだが・・・。
 『リードする精神的負担を負う』と意識するのは、ビレイしている相棒を信頼していない時であり、『リードしてもらい精神的負担を負わせる』と意識するのも、リードしているものを確保できない者の言うことだと思う。実際、山岳会ではリードこそクライミングの醍醐味であり(^.^)、楽しみであり(^_^)、仲間をセカンドにさせてしまう事を申し訳ない(^_^ゞと思うのが筋である。最近では、まったくリードする気もないのに、連れて行ってもらうだけの人も多い気がするが(-_-;)
 
 誘っておいて、不安が沸いた。それは、じんさんが私をビレーしていて私が落ちた時の事だ。責任を感じてもらっては可愛そうだと思ったからだ。女房に同行を頼んだ。女房も8月に練習をしただけで、ルートを登るのは初めてでありビレイするのも、まったく初めてである。であるが、それで落ちても私は気が楽であるからだ。そうこうしている内に、山岳会のいつもの仲間・・・川キョンと小松の親分も、休みと判り同行となった。結局女房は、次男の発熱で中止となってしまったのである。
 比叡へ向かう車中で、当初、私がじんさんだけてなく女房まで誘ったのは、ビレイの事があったからだろうなぁ・・・と、川キョンが言っていた。山の会の仲間は、同じ気持ちでいるから、ロープをつなげるのだとつくづく思う一言でもあった。
 

取り付きへ急登・・・ 取り付きでロープをつなぐ
   

1Pをリードする小松の親分
  
この日のじんさんの不安な気持ちがすべて出ている1枚
 

 とかなんとか能書きをたれていたが(^^ゞ、久しぶりのスラブを目の前にすると闘志が沸く。もう、覚悟は登るだけで絶対落ちない!という感覚だけである。TAカンテルートなら、この1Pが核心となるのだが、ここのじんさんの登りを見て「TAカンテ」にするか、私も川キョンも小松の親分も初挑戦となる「ナックルスラブノーマル」に行くかを決めることにした。

1Pの核心となるところ・・・、ファイト一発のずり上がりで見事クリア
   

 じんさんの登りを見ていたら、初めてこのルートをリードしたときの事を思い出した。核心部を越えるのに、30分近くを要した。2度クライムダウンをして、必死の思いで乗り越した。セルフビレーをとった時、全身の力がスーッと抜けた感じがしたのを、今でも鮮明に思い出す。
 しかし、この暑さは凄い。初挑戦ナックルスラブルートにも未練はあったが、いきなりX級をじんさんに経験させるのも少し可愛そうな気もしてきた・・・/(-_-)\。小松の親分と顔を着き合わせ、あっさり「TAカンテ」へと決定し、ロープを1本リュックに収納して、私とじんさん、小松の親分と川キョンがつながり2トップで行く事にした。

   
 2P途中からパチリ! 4Pをリードするじんさん

 カンテに取り付くと、じりじりと太陽が痛いほど照りつけるq(-_-)bad!!。一緒にリードしている小松の親分と、「下山したら、川に飛びこもうや!」「熱ちぃしてたまらんわぁ!」を連発した(^.^;)。上がってきた川キョンに、そのままじんさんとリードして上がるように言う。
 恐々だがじんさんが私の上を登り始めた。一気にスタンスが見えなくなって来ているのが判る。恐怖心から、ホールドを必要以上に手で引き付けている証拠だ。「体を浮かせて!」「スタンスは一度、右に置いて!」といろいろ声をかけるが、あまり効果ない。川キョンに導かれながら、私の視界から消えて行った。何度も「もう着いた?」「まだぁー!」のやりとりをする。じんさんが苦戦しているのが、ロープから伝わってくる。落ちる所ではないが、背中に迫る高度感と、自分の前には無いロープのプレッシャーが迫るのだと思う。
 「ビレー解除!」と、川キョンの声が聞こえた。無事登ってくれたので、一安心。小松の親分とさっさと登り、そのまま終了点へ・・・。握手。
 

 最終ピッチを登ってくるじんさんと川キョン・・・緊張が笑顔に変わる瞬間である。

   
岩尾根を下降路へ向かう 綱の瀬川で泳ぐ・・・気持ちいいっ!
   

 初心者を連れて来る事で見えてくる何かがある。それも大切にしたい。ただ、クライミングに含まれる要素はあまりにも多く、「気軽に・・」は誘えないのも事実である。だから、信頼関係だとか、性格だとか、相性だとかあるのだと思う・・・。「楽しかった?」と、私はじんさんに聞かなかった。数日経って、怖さが熟成され、充実感もじわっと沸いてきて、なんとなく実感が出来てくるのだと思う。

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