比叡山 岩登り ロッククライミング 第1スラブ
2002年10月14日
水流渓人初めてのオールリード・・・、そしてフォール敗退。

ザイルパートナーのボッカ馬場さんと

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所属山岳会の山行で、長崎労山の仲間達と・・・

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私の所属する「西都山岳会」は、日本勤労者山岳連盟(通称:労山)の宮崎支部である。今回の比叡ロッククライミングの話は、その労山・九州ブロック会議の時、長崎労山「ミラン山の会」の方達の比叡遠征を手伝いしよう!と引き受けた所から始まった。
 しばらくして、私の山の兄貴(決して怪しい関係では無い)長崎の「
Jimny」さんの知り合いである事が判った。Jimnyさんのページにも登場している「プルージックしげ」さん、その奥さん「ヌンチャクお春」さん、そして「ボッカ馬場」さんである。Jimnyさん・プルージックしげさん・ボッカ馬場さんは、古い山友で「前穂高北尾根登攀」や「冬の祖母傾縦走」などをされている。また、ヌンチャクお春さんは、Jimnyさんの奥さんmimimamaさん達と「女だけの祖母傾縦走」をご一緒されている。
 いつもは平日か祝日しか行けない私も、体育の日と言うことで参加が可能になった。実に山岳会の山行に参加するのは久しぶりである。わくわくする期待感や出会いに、待ち遠しい事この上なしであった。
 皆さんは12〜14日の日程であるが、私は13日の夜からの合流である。13日に仕事をしていると、会長の電話を使ってヌンチャクお春さんから登攀終了点での歓喜の電話・・・、ますます合流か待ち遠しい。

 この日は、西都山岳会からはNAMA会長、私の師匠の川キョン、マッキーが参加していた。兄弟会でもある「宮崎岳朋会」からは、先日私を鉾岳大長征ルートへ連れて行ってくれたINAさん、そしてN崎さん、Yの内さん達も比叡入りしていることを知っていた。仕事を終え、一路カッ飛びの比叡入りで、駐車場に到着すると車座にもう盛り上がっている。
 目的を同じくするもの同士のうち解けは、限りなく早い。川キョンに「誰か判る?」と質問を受ける。よくよく聞けば、長崎労山の方達以外、私も関わる「やまびこ会」つながり、山岳プロガイドのとことんさんと、CJNさんまでいらっしゃった。知り合いが、私の知らない知り合いを紹介してくれて知り合いとなり、私の知ってる知り合いを知らない私の友達に紹介したりで、全員の顔が繋がって行く。中でも、大崩「小積中央稜」の初登者である「原口」さんにお会いできたのには感動した。当年69歳で、いまだに比叡の岩を奥さんと登られるそうである。穏やかな表情と、山に魅了された男独特の大きさを感じた。
 入り乱れての懇親会は、酔いの回りと眠気で自然お開きとなった。

登山口駐車場から、秋の雲海が見える 取り付きで、O田さん、ヌンチャクお春さん

 朝、薄明るくなった空を感じてテントから出た。秋特有の雲海が谷を埋めている。空が色づく頃、比叡南面のスラブの起伏も見えてきた。
 朝食をとりながら、今日のコースに思いを馳せる。所用で、今日は登らず帰る川キョンとマッキーが、実に羨ましそうにしている。前日は、ブルージックしげさんのリードで、失われた草付きのY級を登ったそうだ。どうあがいても私には登れないだろうと思う。
 装備を調え、本日のメンバーは、4人のトップと4人のフォロー・・8名4組で登ることになっていた。前夜、NAMA会長が、私に「トップで行け!」と、尻を叩いてくれた。5ヶ月・6回目のクライミングで、しかも身震いする指示だった。当然、「行きます。」と返事をした。
【オーダー】
・1組目
(NAMAさん−岩初体験はるちゃん@長崎)、
・2組目
(水流渓人−ボッカ馬場さん@長崎)、
・3組目
(ブルージックしげさん−ヌンチャクお春さん夫婦@長崎)、
・4組目
(N崎さん@宮崎岳朋会−O田さん@長崎)
 T峰第Tスラブの取り付きに集合した。平日しか行ったことのない私は、たくさんのクライマーで賑わう比叡を初めて経験した。九州各県・中国地方から来ているのを見ると、やはり有数の岩場であることを実感する。
 1Pは、登りやすいホールド豊富なコースである。足裏の感覚をつかみながら大切に登る。左、草付きへ登り上がるところでピッチを切る。ここが、右ノーマルと左スーパーへの分岐でもある。ノーマルは、以前川キョンと登ったが、濡れた岩がとてもいやらしく苦労した。見上げると、ノーマル3Pの豪快なカンテも魅力的である。

2Pスーパー 上/はるちゃん@長崎
中/水流渓人  下/N崎さん
4Pを上がってきた、ボッカ馬場さん

 順番が来て、2Pへ取り付く。ここは、私が初めて岩登りに来たコースである。NAMAさんのリードで、この2Pに度肝を抜かれた。クラックをまたぎ、ストンと下の切れ落ちたスラブへトラバース気味に出る。一気に高度感に襲われる。以外にも、今回の私は、ここのコースに爽快感を覚えた。初めてしがみついたこの2Pであったが、実はあの時魅了されたのかも知れない。15m先の2人ほどしか立てないテラスで、ピッチを切る。車道から見ていた川キョンとマッキーからの、声援が聞こえる。心配そうに見ているのだろうか?・・・。フォローで来るボッカ馬場さんも、3組目のブルージックしげさんも、ここのコースは視覚的に緊張したのか、堅い表情に見える。しかし、登りは流石に安定していて心配はない。
 1組目フォローのはるちゃんが登りはじめると、少し横を私も続けて登り始める。3P目、以前とはまったく違い、グイグイ登れる。自分でも驚くが、緊張は維持しておこうと再確認する。4Pを登れば、松の木のテラスへ到着する。体がなじんで来たのが判る。
 後、5Pとなる亀の甲スラブ、6P・7Pのスーパーは、大好きな所なので、少し先が見えてきた。小休止をしながら、後続の3・4組の登りを眺める。しかし、ブルージックしげさんのムーブは、流れるようで無駄がない。フォローのヌンチャクお春さんも息がぴったりで、女性ながらパワフルな登りだと感心する。N崎さんの登りも勉強になる。派手さは無いが、慎重に確実に登り、慣れた動きである。私の登りは、自分自身でも結果オーライみたいな所が多く、まだまだ練習が必要だと感じている。今日のトップは、分不相応だと思うが、ボッカ馬場さんのスムーズなビレーで有難い。

5Pとなった通称:亀の甲スラブをリードする、NAMAさん@西都山岳会会長

2組目、亀の甲リードの水流渓人 3組目、亀の甲リードのブルージックしげさん

 5P亀の甲のトップは、2回目である。以前は、ロープの流れを悪くしてしまい反省したので、左一杯一杯にコースをとり、間にフレンズでプロテクションをとりロープがZ状にならないように注意した。ここのビレー点からは、後続の面々の登りが一望できる。吹き上げる風も心地良いことこの上ない。
 続いて6P・7Pのスーパーを、一気に直上する。50bザイル一杯にのばして、2b足りない事は承知である。先行のNAMAさんにスリングを渡してつないで貰う。実に快適なピッチで、残り2ピッチを惜しみながら登った。

7Pリードの水流渓人

 全体の調子を見ていたNAMAさんから、当初計画とは違い8Pをスーパーコースへとるか、ノーマルか、どちらでも良い指示が出る。そう言われるとノーマルへ行くのは逃げ腰みたいだと思える。X+のリードは、まったく自信もない。ここまで来れたのも、実は実力では無いのかも知れない。
 しかし、意を決して、フォローのボッカ馬場さんに、「行きます。」と声をかけた。ビレー点から右にトラバースして、傾斜の強いフェースに取り付く。先行したNAMAさんのルートを思い出しながら、斜めに入ったクラックへ登り上がろうと、フェースに2歩2手出た。「?」確か、右上へ出てクラックを掴んだ?・・・・・と思い出した時には、後退の1歩と1手が見つからない。不安になったとき、体が岩に張り付き始めるのが判る。無意識に体は恐怖を感じていたのだと思う。いつもNAMAさんに言われていた「リードするものは、後退を考えての前進だぞ!」との言葉が、頭の中で渦巻いていた。
手の力が抜けた瞬間、重力が消えた・・・・・
 フォールしたのだと認識するまで、少し時間がかかった。下が地面でなく傾斜の強い岩とブッシュだったので大きな衝撃はなかった。ザイルで確保されて停止していた。おそらくザックがクッションとなって回転し、草の上へ落ちたのだと思う。どこかを打って少し息が詰まったことを確認した。しばらく座り込んで、呼吸を整え、取り付き位置に戻った。
 気持ちは妙に冷めていた。登り直そうかと両腕に力を入れると、背中に痛みが走った。「自分だけではない。動けないようなケガをしたら仲間に迷惑をかけてしまう。」・・・そう、冷静に考え直したとき強い精神力が必要な事を知った。そこからのピッチは、ほぼ足だけで登った様に思う。辛い登りとなったが、自己嫌悪に耐える気持ちの方が痛い気分である。「もう一度来よう!」そう思ったとき、少し気が楽になった。

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8PX+をクリアしてパチリ! いい顔してんねぇ〜

最終ピッチリードのボッカ馬場さん 最終ピッチリードのヌンチャクお春さん

 最終ピッチの取り付きに全員が集合した。とりあえず、全員完登手前である。ここは今までスムーズなフォローをしていただいたボッカ馬場さんと、ブルージックしげさんのフォローをしていた奥さんのヌンチャクお春さんがトップを代えて登る。私はフォローで、下から青空だけを見ながら最終を登り詰めた。そして、握手。8人が揃い、緊張の緩んだ笑顔が広がった。
 少し、休んで登山道を目指す。数本あるルートの終了点には、たくさんのクライマーが休んでいた。以外に、若い?女性が多いことに気が付く。


矢筈岳・丹助岳をバックに、ブルージックしげ・ヌンチャクお春ご夫婦

左から、NAMA・N崎・O田・ボッカ馬場・ブルージックしげ・ヌンチャクお春・はるちゃん・水流渓人

 一気に下山する。私は、X+敗退の気分がなかなか抜けず、「その経験であれだけリートしたから立派や!」と言われても納得が出来ずにいた。それは、技術ではなく、慎重さとか緊張に欠けていなかったか?と言うことである。思い返せば、反省点も多い。
 下りながら、先輩のN崎さんが「ボクもあそこで落ちているし、今日も怖かった!」とポツリ・・・。それを聞いたとき、皆克服しての今なんだと理解した。
 千畳敷からT峰を振り返ると、長崎の方達は満面の笑顔である。集合写真を写して、後にした。比叡神社で旨い水を飲みながら、ボッカ馬場さんとブルージックしげさんに「大きなケガをしなくて本当に良かった。骨でも折ったら皆さんに大迷惑だった所でした!」とお詫びを言ったら、「なんの、大丈夫ですよ!置いて帰るから・・・。」と返事が返ってきた。なんか救われるような嬉しい言葉だった。皆さん、実にいい目をしていた。初めて合ったJimnyさんの目の輝きに似ていたのを思い出した。
 また、来てください。

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